師走浪人セブン
『 ねがぽじ 』 (中編)
いくら物語性やテーマ性を意識して書いたとしても、商品としてはあくまでエロゲー。
そのため、いじめのシーンはかなり抑えめに書きました。

……本当ですよ?

鎖でもかなり強めにブレーキを踏んでたんですよ? 物書きというのは基本的に人でなしなのです。
ねがぽじはいじめの描写や凄惨さが目的のゲームではないわけで、予想される購買層も考えて、
残酷さの表現についてはあっさり味に仕上げました。
それと同様に、自分の中で線引きをしたのは、
ねがぽじはトランスジェンダーをテーマとして掲げているわけではないということです。
エロゲとして、ユーザーを楽しませなくてはならない。
そこで、TSに関する正しさについてはあえて目をつむりました。
これにつきましては、TSに関するさまざまな困難を目の当たりにしている方々に
不快な思いをさせたのではないかと今でも気がかりです。



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さて、まひるは実は男だったと。
では、次の展開としてはどう踏み込んでいくか。
そこで私の頭に閃いたのが、
『女ではなかったまひるが、もし人ですらなかったとしたら?』
という命題でした。
性別が変わる、というハードルはまひるを取り巻く人々の何人かはクリアしてくるでしょう。
しかし、まひるが女はおろか人ですらなかったら?
しかも、それが人間の捕食者であったとしたら?
文明社会の防壁に守られて暮らしてきた者にとって、
自分が他の生物の餌になるというのは未曾有の体験です。
それでもまひるのそばにいられるのか?

そのような展開について考えていく中で、テーマの消化とは別のアプローチとして、
まひるとは運命共同体とでも呼ぶべき『ひなた』という存在が形作られていきました。
彼女はまひるによって生かされた者でありながら、
ただひとり真実を知る者として今もまひるのことを見守っています。
つらい記憶を自分に押しつけ、忘却の彼方へ避難してしまったまひるに対して、
少しすねるような感情を抱きながら。
姉に厳しいというひなたの性格もこうして出来上がっていきました。

テーマの設定と、その解決方法に関する考察、そして設定の調整……そういった試行錯誤の繰り返しで
枕の物語は作られていきます。今も基本スタイルは変わりません。

続きまして、それぞれの登場人物について思い出したことをつらつらと。


●まひる
世の中の大抵のことが好き。特に食べること、みんなでわいわい遊ぶこと。
基本コンセプトは、よかった探しのポリアンナ。
これも誰か言い当ててましたね……。素直にすごいと思いました。
まひるの要素という意味では、それとは別に、実在するモデルもいたりします。
そちらの方は永遠に秘密。直接訊かれても言わないよ。

まひるを主人公に据えたことによって特に苦労させられたのは地の文でした。
なにせアホの子ですから、モノローグでも難しい言い回しなんか使うはずがない。
その少ない語彙の中で状況を正確に伝えたり、心情を語ったり、
時には心象を風景描写に仮託しなければならない。
苦労はありましたが、一方で、より簡潔な言葉で深い意味を表現するという、
地の文を書くうえでの指針が自分の中で組み上がるきっかけにもなりました。

まひるの肉好きは考えてみればかなり怖い設定ですなー。


●香澄
ねがぽじの中では比較的恵まれたキャラ。
わりと太いストーリーが二つあり、ほぼ言い尽くした感があります。
まひるを守り通すと、真っ先に覚悟完了した人。
人が法を守るのはその方が得だから。
彼女にとっての最優先事項が世の中と相反するなら、もはや法に殉ずる必要性は認めない。
まさにソクラテスの真逆を行くキャラです。
しかし、本編では人としての物理的な限界を象徴する存在でもありました。
強さのともなわない優しさなど無意味。ねがぽじで扱うテーマのひとつでもあります。

人には価値観があり、価値観がまた人を作る。
はろあげの時点ですでに、各キャラから見た物語というものは想定しながら書いていましたが、
本人は何を最も大切に思っているのか、
ということを強く意識しながらキャラ作りを始めたのはねがぽじからだったように思えます。


●美奈萌
まひると同じ放送部員。
二人でお昼休みの放送を受け持つシーンは、
私自身が小学生の頃に放送部員をやっていたことが下敷きになっています。
同級生の中ではまひると最も古い付き合いになる美奈萌には、本来ルートが三つあり、
その中のメインルートでは、美奈萌は幼い時に見た羽根を再び目にすることになるはずでした。
おかげでどうにも中途半端な印象に。
ここでは他にも、まひるの性格づけの重要なひとつ、
高さに対する恐怖心がないという伏線の解決が予定されていました。

美奈萌エンドは決して文句なしのハッピーエンドとは言えません。
しかし、状況が個人の力ではどうすることもできないほどに苛酷であれば、
その場から避難するという選択もあってしかるべきなのです。
安易な解決を書いてみせるのは簡単だったでしょう。
実際、そういう創作物は世に溢れています。
でも、それは嘘だと私の中の何かが囁いたのです。
誰かにがんばれと声を掛ける人って大抵安全な場所に立ってるものですよね。


●小鈴
同じく放送部員でまひるの後輩にあたる小鈴。
男がちょっと苦手です。
あれ? どこかで聞いたような……。

小鈴シナリオのメインルートは、がらりと雰囲気を変えてサスペンス調になる予定でした。
とーっても怖〜い話ね。ふと振り返ると、今まさに危険とすれ違った自分に気がついてぞっとするような。
そこで発覚する、まひるにつらくあたる教師の裏の顔。
今にして思えばこの教師、『鎖』の岸田の原型かも。

当初考えていたねがぽじの基本コンセプトとして、
ルートごとにまるで違う話を楽しめる、というものがありました。
その試みも結局は開発途中で頓挫してしまうわけですが。
最近のはやりでは、ストーリーもキャラもむしろ一色で塗りつぶす方向へ行ってしまったことは残念無念。


●ひなた
まひるの妹。
もしくは、まひるという生物に寄生された家族のひとり娘という言い方もあります。
歳をとりません。彼女はいつまでもあの姿のままです。
唯一、まひると同じ道を歩む資格がある者。

幻のひなたルート……。
いや、多くは語るまい。ざっと大筋だけ。
こちらは、まひるよりも先にひなたが天使と遭遇してしまったケースです。
まひるの記憶の番人であるひなたは、まひるを覚醒させないように自分ひとりで逃げ回ります。
しかし、親は雛鳥の悲鳴を聞き逃さないもの。
二人は親子ではありませんが、命を与えた者・与えられた者として強い結びつきを持っています。
そして、深夜の学校を舞台としたバトル。
ここでは香澄シナリオとは違い、まひるとひなたが共に力を合わせたり逃げ回ったりと、
いくらかコメディ寄りです。
片方の羽根だけをばたつかせて涙ながらに落っこちていくまひるを、校舎の窓からひなたが
「何なんだあれは……」
と見ているシーンとか考えてましたね。
しかし、最後には、優れた生命力と身体能力を持つ者同士で肉を削るような戦いが繰り広げらます。

ねがぽじの結末を分類する方法のひとつとして、
まひるの背中にある羽根の枚数というものがあると思います。
二枚、ということはありえない。
それはひなたの死を意味しますから、まひるは絶対にその結末を選びません。
一枚、というのはすでに出ました。香澄エンドです。
それなら残るのは……?
本作をご購入いただいた方は、スタッフコメントに書いたまひるのセリフを思い出してください。
ひなたが、何があってもまひるを守ろうとしたように、まひるは決してひなたを見捨てない。
例え、その行為が何を意味するかわかっていても、笑って自分の羽根をむしり取ってみせるでしょう。


●日和(ひより)
幻といえばこれほど幻もあるまいて。なにせ、キャラそのものがボツになったのですから。
すべて私の責任です。ごめんなさい。

若者が集まる繁華街でニット帽を目深にかぶり、こっそりとピアニカを弾いている少女。
彼女の背負う複雑な運命を前にしては、まひるの直線的な陽気も曇りがちです。
ここでは、まひるの不思議な歌について語られます。
うまくはないのに心を惹かれるまひるの歌声。その秘密とは……?
いつか音楽ものをやる時のために、核心となるネタは秘密秘密。
バンドを題材にした物語は、特に漫画においてよく見受けられますが、
そこで大抵出てくる主人公の美声について根拠を示したものはあまりありません。
それに対する、まあ、私なりの答えということで。

書きもせずに何をいばってるんだ、私は。


●透
本作において、男の容姿を持ったある意味貴重なキャラ。
透専用のルートはありませんでしたが、その無念はFDで晴らされることに。
それはもう過剰なほど。

対天使戦では多彩な罠を仕掛けて一矢を報いた人類代表。
確かな理屈を積み上げることで月にまで行ってしまう人類の文明をまさに仮託しております。
どんな困難も知恵と勇気で乗り越える、枕主人公の典型。今回は主人公じゃないけど。
最近はマッチョイズムという言葉でそういうタイプの主人公を否定する向きもありますが、
ぶっちゃけそれは作り手の言い訳のように聞こえるのです。
思わせぶりな謎や危機を出しておきながら、
あっさりそれをなかったことにするとか、逆にただ打ちひしがれるだけで終わるというのはちょっと。
葛藤を乗り越え、その術を示してこその物語なのです。私もそんな物語が読みたい。

「これって、あたしのわがままだったのかな?」
「そうだ、おまえのわがままだ」
透の言葉はいつだってまひるを世間から守るためにあるのです。



はぁ、久しぶりに思い返してみると芋づる式に出てきますね。ちょっと書きすぎたかな。
必要以上に物語を用意して臨むのは毎度のことですが、
こうしてみるとねがぽじの時も例外ではなかったようです。

各キャラについての思い出話はこのくらいにして、
次回はねがぽじの設定についてと、発売前後の記憶に触れてみたいと思います。



  後編へ続く!